今から3年前、組合に腕利きの剣士が一人現れた。
しかしその剣士。年端のゆかぬ子供で、十と六であるのに小柄で、その上少女のような少年だときた。
どこからどう見ても弱弱しい少年であったのだ、外見だけならば。
人は見かけによらぬと言うが、まさしくその典型であろう。
少年がひとたび剣を抜けば、異型はおろか、屈強な剣士が束になってかかっても歯が立たない。
そんな将来有望な少年が、ついこの間、組合トップ剣士にまで成り上がってしまったというものだから驚きだ。
なにせ剣士組合に加入してたった三ヶ月でトップだ。現組合長秦苑の記録を大きく塗り替えての台頭は、最早事件としか言いようの無く、瞬く間に組合中を駆け抜けた。
少年の剣士は多くは無いが存在する。
彼は『天才』だったのだ。
天才はいつの時代も突然現れ輝かしい功績を残してこの世から消える。
だが、この天才が残したものは、功績でも名誉でもなく、たった一人の子供と剣だった。
W.E-機嫌が良かったらしいよ-
「ナナミくん、いる?」
部屋で剣の手入れをしていたナナミは、ドアの開閉音に振り返った。
そこにはリリスが立っていて、いつものロングスカートにシンプルなシャツ姿で、今日はポニーテール姿だ。
ナナミは、というといつものズボンに黒いシャツとラフな格好だ。手には剣と磨き布を持ち、絶賛手入れの真っ最中であった。
ちなみにこの「手入れ」。
ソフィアに言われたように、毎日欠かさずおこなっている。磨いている剣はいつも鈍色を放っていて、本当に綺麗になっているのか疑わしい。使うことも無いし、手入れすることに意味があるのか聞きたくなる。が、剣術の達人であるソフィアとリリスが言うには、たとえ使わなくても意味があると言う。彼女達が現役の剣士だからそう言うのかもしれないが、ナナミにはイマイチ分らない。だって、使っていないなら週に一度や二度でよくないか?と思うものだろう。
だが、欠かしたが最後必ず見破られて恐怖の飯抜きが待っている。最悪の場合恐怖の剣術稽古という名のしごきが待っている・・・・それだけは避けたい。
しかし一方で、仕方ないか、と思う心もあったりするから不思議だ。
記憶をなくしたその時から一緒の剣は、武器というより仲間にちかい感覚がある。仲間は大切に、とはよく言うもので、ナナミの中でも同様の感覚がある。
何だかんだ面倒くさくて忘れてしまいそうになるが、大事にしているのだ。この冴えない色の剣を。
だから、ナナミは今日も剣を磨く。
そんな手入れの途中にリリスがやってきて、こんなことを言った。
―――ソフィア先生がナナミ君のサイズ測りたいから降りて来いって
「サイズって・・・何の?」
「この前、ジャケットが破れたって言っていたでしょ?先生が代わりのものを作るから寸法とか測りたいそうよ」
「え?!作ってくれんの?!」
驚くナナミに、リリスはよかったわね、と笑顔で答えた。
実は二日ほど前、庭でコレットの遊びに付き合ってやったとき、うっかり木の枝で大きな穴を開けてしまい、ジャケットが使い物にならなくなってしまったのだ。
ほつれ程度なら良かったのだが、背中に、しかもど真ん中に大きく縦に裂いてしまい、修復不可能状態。
ほぼ一張羅だったし、買うにしても金が無い。おまけにシグレには「どうやればそうなるのよ」と、笑われるは呆れられるはで困っていたのだ。
「下で待ってるから、手入れが終わったら降りてきてね」
「わかった」
リリスはドアを閉めると階段を下りていった。
「よーーーっし!!」
早く終わらせよう!とナナミは意気込んで、磨き布で剣の手入れを再会した。
多分オワリじゃね?
アッーーーーーーーー
うっぜええええええええええええええええええええ73死ね!!えええええ